「なぜそんなけったいなものを履く」
そのとき二人は関ヶ原最強で枡を集めているところだった。曇り空の中に、人工的な稲妻が鳴り響いている。
石田が突拍子もない言動をするのは珍しいことではないが、未だに慣れない毛利はつい間投詞で返した。
「は?」
「貴様、足が遅い。その靴が走りにくいのではないのか?気が付くと遥か後ろにいる。歩幅を合わすのも面倒だ」
「……」
毛利はこう見えてかなり短気なので内心むかつきまくっていたが、表情には全く出さなかった。
相手が黙っているので石田は勝手に重ねて喋った。
「背が小さいのを気にしているのか」
「……」
正直図星だった毛利は更に怒りが沸いたが、やはり顔は変えなかった。
実際のところ毛利がかかとの高い靴を履く理由は他にもある。
これは断じて嘘ではない。
背丈がないと舐められるし、戦場で埋もれるし、さらに周りがやたら高身長なので会話していて首が疲れる、と悩みは尽きないのだ。
と言っても身長の何倍もプライドが高い毛利なので、石田の指摘を認める気はさらさらなかった。
「……拍車をつけるためよ」
「貴様大して馬に乗らないではないか」
確かに、馬に乗っていると罠を仕掛けることができないので戦場の毛利はほぼ徒歩で移動していた。
この言い訳は失敗だった。うかつ。だが利点などこれ以上思いつかない。
中世ヨーロッパで道端の汚物を避けるために作られたという説は与太話であるし、第一BASARA世界の道端に汚物はなかった。
毛利は、ハイヒールの理由には答えないで話題を移すことにした。
「こほん。我の移動の遅さが気に入らぬのであったな」
「だからどうした」
「我はもうこの靴に慣れておるゆえ、脱ぐと余計遅くなる」
「なんだと?それを早く言え!!」
「貴様の聞き方が悪い。それに我がそこまでしてやる理由もない」
「毛利。そんなことを言っているともう素材集めについていってやらないぞ」
「うっ……」
実を言うと毛利は雑魚殲滅が本当に苦手だ。壁サンドは大量の雑魚には無力である。縛にしても直接殴るにしても低火力なので時間がかかる。毛利にとって手数範囲ともに優れる石田は自分の不得意な分野を補ってくれる便利な存在なのであった。
が、
「わかったらなんとかしろ。刑部は急くな、真田は紅蓮脚、長曾我部は弩九がある。西軍で遅いのは毛利くらいだぞ。それでも武将か」
「わ、我以外が人外なだけよ!!おかしいぞ貴様ら!!」
そう思ったのも事実であった。
「やれ三成なにがあった」
BASARA武将の異常性にうっかり氷の面を放棄してしまった毛利は、石田よりまだ話が通じる大谷の登場を有難いと思いつつ、原理不明の力でふわふわと浮いているMIKOSHIに目をやった。
今日のMIKOSHIはKOTATSUだった。
「こいつの足の遅さをどうにかしようとしているのだ」
「我は悪くない」
悪くないったら悪くないのだ。毛利の基準はあくまで自分である。
「では、三成が毛利を抱えて走ればよいのではないか?」
「は?」
毛利は頭がよかったが、この謎発言の意味を理解するにはかなりの時間を要した。
「石田が?我を?抱えて走る?」
なぜ成人男の二人組がそんな小っ恥ずかしいことをしなければならないのか。完全にお笑いである。
しかし石田の方はそう思っていない……というかあまり気にしていないようだった。
「わかった」
「はあ!?」
貴様頭は無事か?と思わずにはいられない毛利。
石田は毛利の動揺など完全無視で早速抱き上げて走り出した。
「ちょ、貴様!降ろせ!ああ、我の輪刀!」
「黙れ!!拒否は認めない!!」
凶王はすぐこれだから頗る面倒だ。大谷はどんな教育を施したのだ!
バタバタ暴れてみるが猛スピードで移動しているので下手に落ちると怪我をしそうでやめた。
「大体これでは移動中無防備ではないか!!」
「そんなもの貴様が何とかしろ!!」
えぇ……(困惑)
しかし本当に無防備すぎる。気付けば二人揃って赤ゲージぞ!
どくんどくん……このままでは討ち死にだ!!雑魚に殺されて一輪車だ!!
そのときオクラに電流走る。
令・槍兵前進……!!
「槍兵!」
「元就様ぁぁあああ!!!」
「うおおおぉぉおお!!!」
ノーモーション、連発可能、到達速度最速。そして無敵付き。毛利軍最強の援軍である。
戦場は毛利を中心として放射状に槍兵が発射され、人間弾幕で周りの雑魚が排除されていく滅茶苦茶な様相を見せている。
だが速い。すごく速い。ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属のハシビロコウとしては信じられない機敏さで最上を風魔を北条を縦横無尽に駆け回る。
そして壁サンドに挟まって徳川が死ぬ。
枡は、毛利が持ってきた杓子と合わせて無事黄金の三桜になった。
basarax続編まだかな!!!!!!!!!!!!!!!完